インターネットやSNSを開けば、動物の健康や飼育に関する情報が溢れ返っています。
その中には有益なものも多くありますが、一方で目を疑うような極端な主張も少なくありません。
「動物病院は薬漬けにして利益を得ている」「市販のペットフードは毒だらけだ」――。
このような、動物病院やペットフードメーカー、あるいは業界全体を「悪」や「敵」として糾弾する発信を目にしたことがあるはずです。
不安を抱える飼い主様にとって、こうした強い言葉は心に刺さりやすいものです。
しかし、冷静になって事実を見つめ直してください。
彼らは本当に動物のことを考えてそう言っているのでしょうか。
今回は、ネット上に蔓延する「対立煽り」の構造と、動物医療の現実、そして私たちが動物のために本当に取るべき姿勢について、事実ベースでお伝えします。
1. 業界を「敵」に仕立て上げる、下品で悪辣なマーケティング
結論から言います。動物病院やフードメーカーを執拗に攻撃し、敵対視するような情報発信の大部分は、「自らの利益に飼い主を引きずり込むための、極めて下品な宣伝手法」に過ぎません。
マーケティングの世界には、架空の「共通の敵」を作り出し、大衆の不安や恐怖を煽ることで自らのサービスや商品を魅力的に見せるという古典的な手法があります。
「既存の獣医療は間違っている。だから私のこの特別な療法(あるいはサプリメント)を買いなさい」 「市販のフードは危険だ。だから私がプロデュースしたこの高額なフードを与えなさい」
彼らの目的は、動物の健康向上ではありません。
既存の業界を貶めることで自らの相対的な価値を上げ、飼い主様の不安につけ込んで集客を図るという、非常に浅ましく利己的なビジネスモデルです。
他者を根拠なく攻撃してまで自身の商売を成立させようとする姿勢は、医療や動物福祉に関わる者として到底看過できるものではありません。
対立を煽り、不安を植え付ける発信からは、誰の幸せも生まれません。
そこにあるのは、発信者の利益だけです。
2. 悪意よりも恐ろしい「誤った善意」とカルト的思考
一方で、金銭的な利益を目的とせず、純粋な善意から業界を攻撃し、誤った情報を拡散してしまう人々もいます。
特定の自然療法や極端な食事療法に傾倒し、宗教のような思い込みで「これが絶対の正解だ」と信じて疑わないケースです。
ここで認識しなければならない事実があります。
それは、「客観性を欠いた誤った善意は、明確な悪意よりもはるかに恐ろしい」ということです。
悪意を持って詐欺を働く者は、どこかで計算が働いています。
しかし、自らの行動が100%正しいと信じ込んでいる人間は、他者の声に耳を貸しません。
「病院の治療をやめて、この方法を試すべきだ」と、善意100%の顔をして飼い主様にすり寄ってきます。
その結果、本来であれば助かったはずの命が適切な治療の機会を奪われ、手遅れになるという悲劇が現場では幾度となく繰り返されています。
3. 科学的根拠(エビデンス)の欠如がもたらす不幸と、私のスタンス
もちろん、既存の動物医療やペット関連業界のすべてが完璧だと言うつもりはありません。
私自身、科学的根拠(エビデンス)が全くない怪しい療法や、明らかに飼い主様と動物を食い物にするような詐欺まがいのビジネスに対しては、真っ向から異議を唱えます。
間違っていることは間違っていると明確に指摘します。
しかしそれは、特定の個人や企業を攻撃して自身の利益に誘導するためではありません。
エビデンスのない医療や詐欺によって、動物たちが苦しみ、飼い主様が後悔するという不幸を未然に防ぐためです。
批判や議論は、常に客観的な事実と科学的根拠に基づいて行われるべきであり、他者を貶めるための道具にしてはならないのです。
4. 獣医療の現場のリアル:大多数は真摯に命と向き合っている
私は、この業界で働いているすべての獣医師、動物看護師、そしてフードメーカー等の関係者に対して、深い敬意を持っています。
当然、どの業界にも浅ましい人間や利己的な悪人は一定数存在します。
獣医療界隈も例外ではなく、倫理観に欠ける者がいることは事実です。
しかし、それはごく少数の例外に過ぎません。
その少数の悪例を取り上げて、業界全体を測らないでください。
日本のほぼすべての動物病院は、飼い主様と動物のために、日々血の滲むような努力をしています。
休日を返上しての学会参加や論文の読解による知識のアップデート、深夜の急患対応、ギリギリの精神状態で向き合う命の現場。
彼らは決して「金儲けの手段」として動物を見ているわけではありません。
どうすればこの子を救えるか、どうすれば痛みを和らげられるかを、真摯に、そして必死に考えながら日々の診療に当たっています。
動物病院も、良質なフードを作ろうと研究を重ねるメーカーも、決して飼い主様の「敵」ではありません。
動物の健康を共に守るための、強力な味方なのです。
5. 獣医師もスタッフも、一人の「人間」であるという事実
最後にもう一つ、飼い主の皆様にお伝えしたい重要な事実があります。
それは、動物病院で働く獣医師も、動物看護師も、受付のスタッフも、皆血の通った一人の「人間」であるということです。
彼らは魔法使いでも、感情を持たない機械でもありません。疲労もすれば、傷つくこともあります。
飼い主様が我が子(動物)を案じるあまり、感情的になってしまうお気持ちは痛いほど分かります。
しかし、病院側に対する一方的で過度な要求や、理不尽なクレーム、ネット上での心無い誹謗中傷は、お互いにとって何の利益も生み出しません。
現場のスタッフが疲弊し、心を病んでしまえば、最終的に不利益を被るのは動物たちです。
質の高い獣医療を提供し続けるためには、提供する側と受ける側、双方の信頼関係と良好なコミュニケーションが不可欠です。
「お客様とサービス提供者」というドライな関係ではなく、「大切な命を一緒に守るチーム」として、病院スタッフと接していただきたいのです。
【おわりに】動物の幸せのために、共に歩むパートナーとして
ネット上の過激な言葉に惑わされる必要はありません。
対立し、いがみ合っても、動物たちは決して幸せにはなりません。
必要なのは、事実を冷静に見極める目と、相手を尊重する姿勢です。
私はこれからも、真摯に命と向き合い、一生懸命に働いている業界の人々と共に、この道を頑張って進んでいきたいと考えています。
そして、飼い主の皆様にも、動物病院や関係者を「敵」ではなく「パートナー」として信頼していただき、一緒に頑張っていただきたいと強く願っています。
動物たちの健やかで幸せな日々を守るために。
事実に基づき、共に手を携えて歩んでいきましょう。
頑張ります。




