大切な家族であるペットのために、いつ何時であろうが対応してくれる動物病院が有ればいいのに。
そう思われる飼い主さまはたくさんいらっしゃると思います。
当院の周辺地域には24時間365日対応してくださる素晴らしい動物病院があります。
本当に頭が上がりませんし、その志には尊敬しか有りません。
24時間365日動物病院を開けるためには何が必要か、
そして、なぜ当院や、
世の中の動物病院がどんどん夜間診療を止めてしまうのか、
そういったお話をしていこうと思います。
よくテレビとかで夜間救急動物病院に密着!
かっこいい獣医師と看護師が見事な連携で動物を助けていく!
なんて番組がありますが、今日はそういった華のある話じゃなくて、ドロドロとした話です。
でも、それが最も現実に近い、今起きている危機なんです。
まず、夜間診療もそうですが休診日なく病院を運営するのに最も必要なものは・・・人です。
当たり前ですよね。
一つの単位として一週間を考えてみましょう。
一週間は
24時間×7日=168時間 です。
現在、残業なしで考えると一人の人間が一週間で働ける上限は40時間です。
つまり、単純に 168÷40=4.2
4.2人必要になります。
人間は割れませんから5人いないと全ての時間をまかなえません。
これで、たった一人が病院内に24時間いる状態を作れます。
もちろん、一人で病院は回りません。
獣医師2人に看護師が6人、夜間をやるのならコレぐらいは最低必要でしょう。
つまり、獣医師10人、看護師30人を雇用しないと回せなくなります。
実際には夜間は獣医師1人、看護師2人体制ぐらいで回しているところがほとんどでしょうし、残業などの長時間労働を前提として構成されているでしょう。
でも、そんなにずれてはいない人数だと思います。
今現在、獣医師や看護師は空前絶後の人手不足です。
そして、当たり前といえば当たり前なのかもしれませんが、労働条件で勤務先をしっかりと選ぶ方が増えています。
つまり。夜間診療があったり、休診日がなく休みが少ない職場は敬遠されます。
その結果、高給で人を集めるしか無くなります。
・・・経営者にとって地獄の響きを持つ
『人件費』がとんでもないことになります。
夜間診療は高い。そういった声を聞きますが、
当たり前です。
その夜間診療をするためにどれだけの準備が必要か、
なかなか知る機会がないと思いますから、是非是非知ってください。
私は、人間のお医者様も含めて、様々な仕事において、
所謂裏側とも言える賃金の話や労働環境の話を広めるべきだと考えています。
だって、お互い様なんですから。
いいサービスを受けるためには、いいサービスを提供してくださる人が必要だということはきちんと理解するべきです。
裏返せば、自分が働いている時に、その苦労を顧客が知ってくれている方が嬉しくないですか?
動物病院では私が獣医師で患者様が顧客かもしれませんが、
患者様が働いている場所では私がお客になります。
この世の中はそういった「お互い様」であるということが、
だんだん薄れているように感じます。
もっと知ろうとするべきですし、
お客様意識で生きることは自らの首を真綿で締めているようなものだと思います。
さて、僕の大好きなお金の話、さっきの話は人件費だけの話です。
実際には設備費、光熱費、消耗品などなど様々な経費がかかります。
つまり、
基本的には大型の動物病院でなければ夜間診療は不可能なのです。
「そんなことない、うちのかかりつけはそんなに大きくないけど夜も診てくれる!」
そうおっしゃる飼い主様もいらっしゃいますよね?
それ、どなたが診てくれているか、
その人がどんな生活になっているか想像したことありますか?
たぶん、院長先生が夜間診てくれてますよね?
院長先生、昼間も診療してませんか?
代診の先生だったとすれば、夜の先生、お昼も診療してませんか?
貴方にとっては一人の獣医師ですが、獣医師は多数の患者さんを相手にしています。
・・・もうわかりますよね・・・
経営者は労働時間の上限はありません。
さらに、人件費を払う必要もありません。
そして、院長先生は責任感から自分の時間を削って時間外の診療に当てているのです。
時間外診療、夜間診療って酷いこと言われるんですよ・・・
そしてね、踏み倒しも多いんです。
特に初診、後は病気の経過ですね。
まぁ、長くかかられていて信頼関係があると思っていた人の裏の面を見るのも時間外なんですけどね・・・
Twitterにも書いてますが、夜間診療でいらしたのに話を聞いたら数ヶ月前から様子がおかしいとか、
夜中の一時に電話がなって電話をとったらフードの注文、トリミングの予約・・・
まさかー? って思うでしょ。
ほんとにまさかなことがたくさん起こります。
大きな組織の場合は分散するからいいですが、よくないですが・・・、院長一人でやると、まぁ堪えます。
「大切な家族なんだいますぐ診ろ!!」
とおっしゃってた方が、
「たかが動物にこんな高い金かかるのか! 金の亡者か!」
これ、同じ人のセリフです。
たまたま遠隔地にいて診療できないことを伝えると、
まるで人間のクズのように罵詈雑言を浴びせられたり・・・
まぁ、冗談みたいな悪夢な地獄が広がっています。
そして・・・、心が折れます。
場合によっては体を壊します。
私も以前は水曜日の休診日も有りませんでしたし、夜間の電話も転送していました。
その結果、一年足らずで電話の呼出音が聞こえて夜が眠れなくなり、
仕事に行こうとすると嘔吐するようになり、過食、飲酒に手を染めました。
そして、私は夜間をすべてやめて休診日を作りました。
私の精神は、弱っちいのです。
でも、こんな話、動物病院業界ではよくありますし、
場合によっては若くして命を落とした先生の話を複数聞きます。
そして、これ、動物病院だけじゃないですよね。今の日本は利便性のために人間が蔑ろにされています。
・・・社会が悪いとか政治が悪いって話じゃなくて、
お互い様。っていう精神が薄れているせいだと感じます。
大事なことは「知る」ことだと思うので、
今後も他の獣医師はまぁ言わないようなことも、どんどん言っていこうと思います。
でも、獣医師は飼い主様の敵じゃありません。
動物に健康に楽しく過ごしてほしいし、
そのために必死に働いています。
仲間になって一緒に頑張っていきましょう。それを願っています。
夜間診療をなさっている全ての尊敬すべき人々に、
どうか心穏やかな日々が訪れることを祈らずにはいられません。
本当にありがとうございます。