皆さんのペットが病気になった時、多くの場合検査を行って原因や状態がわかると行われることが多い処置、点滴。

輸液とか補液とかも呼ばれますね。

普通にペットと暮らしていて出会う可能性のある治療の中でかなり上位になるんじゃないでしょうか?

今回は輸液について簡単なお話をしたいと思います。

 

輸液の目的は水分の補給。これがとても大きいです。

それ以外には電解質の補充、場合によっては栄養分などの補充も含みますが、何よりも水分の補給という働きを期待します。

よく聞かれるのが、

「なんか元気になる栄養を入れてもらっている」「栄養点滴」

こういった言葉を聞きますが、外来でさっと処置された点滴に入っているのはごく少量のビタミンは入れられますが、基本的にです。

栄養を入れるほどの点滴はセントラルラインと呼ばれる中心静脈点滴という物を用いて完全入院でしか入れられません。

ブドウ糖を入れるだけで皮下組織は炎症を起こします。栄養なんて入れられないのです。

 

例えば下痢は便に水分が抜けていってしまって続くと脱水が起きてしまいます。

嘔吐は胃酸を含む物質が出ていってしまうので電解質異常を起こしやすいです。

腎不全では本来腎臓機能である尿からの水の再吸収が上手く行われずに体外へ水が逃げてしまっていきます。

肝不全では本来肝臓で代謝を受けるべき体にとって有害な物質を薄めるために役立ったりします。

循環不良(心臓病など)の場合には大事な中枢への血流を確保したり抹消循環不良という状態を防ぐ効果があったり、点滴という治療は多岐にわたる効果を期待して行われます。

 

点滴はその個体、そして全身状態を考慮して、適切な種類、添加物、輸液量、投与経路など、結構複雑なことを考えて処置を行っています。

例えば心臓病の時に過剰な輸液を行えば、逆に心臓の負担となって全身循環を悪化させたり。

肝不全の時に乳酸リンゲルなど肝臓での代謝を受ける必要のある輸液剤を選ぶと体調が崩れたり、しっかりと状態と照らし合わせて処置しております。

 

ペットさんの代表的な点滴の投与経路は、皮下投与と静脈投与になります。

皮下投与は背部の皮膚をつまみ上げて、皮膚と筋肉の間の隙間に輸液を入れる形になります。

ワンちゃんやネコちゃんの代表的な外来での点滴の投与方法で、早い時間でそれなりの量を投与することが出来るために小動物診療の非常に強い味方です。

背中にラクダのコブのように液剤がたまり、少しづつ周囲の組織から吸収されていきまさす。

その穏やかな吸収に助けられることもあるのですが、いち早く脱水を解除しなければいけない場合や、血管内血液量を即座に増やさなければ行けない場合には不適合となります。

静脈投与は静脈内に留置針を設置して点滴の機械で行う点滴で、人間の場合はこの方法しか用いれません。

動物と人間の皮膚構造の差ですね。

急速に点滴、そして薬剤が静脈内に投与できるために、重篤な症状や緊急性がある場合は静脈を確保してこの処置を行います。

皮下点滴はご家庭でご家族が行うこともありますが、よっぽど特殊な場合を除けば静脈点滴は入院しての処置になります。

ある程度以上の速度で点滴を流せないこと、かなり繊細なコントロールをしなければいけない、万が一過剰輸液によって状態が悪化した場合緊急の処置が必要になるためです。

 

過剰輸液と書きましたが、これは医療過誤、簡単に言えば医療ミスとは言えない場合があります。

点滴を行った結果様々な変化が訪れて突然予想もできずに状態がガラッと変わってしまうことがあるからです。

大前提として獣医師はその動物を元気にするために、病気を治すために治療を行います。

しかし、我々は神ではありません、予想の出来ない変化もあります。

飼い主様と獣医師の対立構造が生まれることは心の底から望みません。二人三脚で動物を治すために協力してともに歩めることを切に祈ります。

もちろん、獣医師が診るべきところを診ずにてきとーな処置をした場合は医療過誤の可能性もあります。

緊急性が高い場合に、命を救うために点滴したら、状態が変化した。

こんな場合に獣医師のせいにされる場合がありますが、治療しなければ死ぬ動物を必死に救おうとしているので、非常に悲しいすれ違いだと思います。

 

ここからは余談的になりますが、何か問題が起きた場合、基本的に人間という生物の思考方向は誰かのせいにしたくなります。

自分自身に責任があっても、緊急時には誰かのせいにしたくなります。非常によく分かるし、人間なら誰しもが起こす行動です。

非常に状態の悪い動物に対する処置はこちらもかなりの覚悟を持って行っております。

どうか一度冷静になって、現状の理解と、処置への理解を持っていただきたいと常々思っていますが、緊急時はそんな事できない、ということも理解しています。

本当に難しい話ですが、常日頃から出来る限り獣医師とたくさん意見を交換して、死生観なども含めて考える時間を持ってみるといいかもしれません。

命あるもの、必ず命尽きる時は来ます。

我々獣医師は出来る限りQOL、生活の質を高く、長い時間ペットとの素敵な時間を過ごしてもらうお手伝いをしたいという気持ちで仕事をしております。

どうかそのことは忘れないでいただきたいです。

そして、何よりも、

状態がおかしい、悪い、

そう少しでも感じたらいち早く動物病院へお連れください。

お願いします。