麻酔。

普通に生活をしていると、なかなか触れることのない未知の処置。

知らないって、怖いですよね。

今回はそんな未知の世界の上澄みを知ってもらおうと思います。

じつは・・・麻酔ってなんで効果が出るのか、わかっていないことも多い分野です。

今までの過去の経験や研究の結果、どうやらこういう方法で不動化、動かなくさせたり、感覚を麻痺させたり、意識を失わせることが出来る。と積み重ねて現在の麻酔が存在します。

少し触れましたが、麻酔をかける目的をお話します。

 

不動化・・・文字通り動物を動かないようにすることで処置を可能にします

痛覚などの感覚を遮断する・・・痛みを伴うような処置を、本人が苦痛を感じることなく行うことができます

意識消失・・・恐怖を伴うような処置を行う時に、意識を失わせることで本人に恐怖を感じさせないですむ

 

これらが麻酔の目的となります。

人間なら

 

「動かないでねー」

 

で、すむようなことも、動物だとそうはいきません。

まあ小児科の場合は同じように大変なんでしょうね・・・

確かに保定、押えて一瞬処置をすることもありますが、ものすごく攻撃的なワンちゃんやネコちゃんへの処置は、時として鎮静~麻酔を必要とします。

鎮静は不動化を目的として、完全には意識を失わせないようなレベルで麻酔をするようなイメージでOKです。

 

麻酔の流れは

まず術前検査、レントゲン、超音波、血液検査によって

循環器(心臓)、代謝(肝臓や腎臓)、呼吸器(肺や気管)などを調べます。

これらの臓器に麻酔に耐えられない異常が見つかった場合は、他の方法を模索します。

 

術前検査がクリアできた場合は麻酔前投与薬というものを投与します。

これは麻酔に使う薬剤を減らすことができたり、唾液などの過剰な分泌を抑えたり、循環を確保したりするために用います。

 

術前からしっかりと点滴を流して、水和と呼ばれる状態にしてから麻酔をかけることもあります。

老齢で腎臓に軽度な問題があって脱水状態、そんな場合も点滴をしてから麻酔処置に挑むこともあります。

肝臓とかの問題が点滴などで改善するのであれば、先に基礎疾患を治療して、麻酔に持っていく場合もあります。

 

次に気管チューブを挿管するために意識を失ってもらうお薬を投与して挿管します。

気管チューブによって呼吸の管理と、麻酔を吸ってもらいながら麻酔状態を維持させます。

麻酔中は様々なモニターを利用して全身状態を把握しながら麻酔をかけていきます。

 

基本的にはこんな流れになりますが、前投与薬や麻酔の組み合わせはいろいろと存在していて、患者さんの状態や正確に合わせていろいろな方法を組み合わせて麻酔を行っていきます。

 

処置が終わったら麻酔から覚ましていきます。

しっかりと自分自身で呼吸が出来るようになって、意識の回復を確認してから抜管、気管チューブを取り外していきます。

このときが一番緊張します。

特に短頭種と呼ばれる犬種は、喉の部分がきゅっとコンパクトな作りをしていて、自分の舌で窒息してしまったり問題が起きることが有るので、覚醒後もしっかりとした観察が必要になります。

 

これが麻酔の手技的な流れになります。

 

麻酔って怖いイメージありますよね。

獣医師も怖いと思っています。ですが、過度に怖がっていては必要な処置ができなくなってしまいます。

獣医師はたくさんの動物に麻酔をかけていきます。麻酔と近いところにいるので、麻酔の怖さも知っていますが、有益であることも知っています。

麻酔自体が問題になって動物に不利益が起こる可能性は、実は非常に低いです・・・正確には1%未満と言われています。

術前の検査などを行っても麻酔をかけないとわからない、アレルギーなどが絡む問題は1万頭に1頭くらいと言われています。

それらの問題も、きちんとモニターをしてすぐに対応すれば不幸な結果にならずにすみます。

 

しかし、麻酔をかける状態というのは、逆に言えば麻酔をかけないといけない状態とも言えます。

避妊手術や去勢手術のような健康な個体に麻酔をかけることはやや例外的なおはなしになります。

麻酔をかけてでもチャレンジしなければいけない何かがあるから麻酔をかけるので、体の問題がある状態でも、このままなら確実に亡くなるから、治す確率にかけて麻酔をして処置を行うシビアな状態も少なからずあります。

この場合、万が一不幸な結果になった場合、麻酔が原因というわけではないことが多いです。

それでも、危ない橋を渡る理由は、乗り越えてくれれば、助かる可能性があるからです。その処置をしなければ亡くなる。そんな選択をしている事もあります。

麻酔から覚めた後に、術後合併症で問題が起こることもありますが、これも麻酔が原因とは言えません。

麻酔自体よりも、動物の状態が問題を起こすことがほとんどだと思っています。

もちろん適切な検査と、薬剤を用いて、モニタリングをして、術後の監視も行うということをしっかりと行っているからそう言えるとも言えます。

 

麻酔は、怖いだけではなく、有益な方法であることは間違いありません。

絶対に安全とは口が裂けても言えないことは事実ですが、過剰に怖がりすぎて行うべきことをしなくては本末転倒だと考えます。

出来る限り学ぶことを続けて、出来る限り安全な麻酔を行う努力を怠らないことが何よりも大事だと考えています。

 

ぜひ、過剰な恐怖だけで麻酔を遠ざけずに、じっくりと話し合って麻酔と向き合ってみてください。

 

非常に薄っぺらいお話ですが、少しでも飼い主さまに役に立つお話であってくれたら嬉しいなと思っています。

 

ではまた!